『タウリン1000mg 実は「1g」』の真意

『タウリン1000mg 実は「1g」』
先日このような本の帯をふと目にした(『食い逃げされてもバイトは雇うな 禁じられた数字』山田真哉)。僕はこの帯を見た瞬間笑ってしまった。というのも、これがあまりにもびっくり仰天なことを言っているかのように書かれていたからだ。しかし1000mgが1gなんてあまりにも当たり前すぎる。そこで僕は笑ってしまったわけだ。何をこんなにあたりまえなことをでかでかといっているのかと。
まあそうは言うものの僕もそこまでばかではないので、この帯が一体何を言おうとしているのかくらいは、本の副題からしても察しがついた。単に1000mgと1gが等価だということを小学生に向かって教えてあげようという主張ではなさそうだ。おそらく1000という数字をだしていかにも大きいと示しているが実はたった1gで大したことない、これは誇大表示だ、だまされてはいけないとでも言いたいのだろう。僕にはこの帯が言いたい主張はこれ以外には思いつかなかった。おそらくこの考えであっているだろう。
しかし、この帯が言いたいことはそれだとして、この主張は適確だろうか?

1. そもそも1000mgを1gとすることが誇大表示なのだろうか。
僕は現在大学にいる。その上理学部だ。だから単位の換算は日常茶飯事におこなう(1年生なのであまり偉そうなことは言えないが)。だから1000mgと1gが等価だとあまりにも当たり前すぎるように認識したのはそれ故になのだろうか。確かにμ, n, p, f(順にMicro, Nano, Pico, Femto)やT, P, E, Z(順にTera, Peta, Exa, Zetta)などは日常ではあまり耳にしないし、耳にしてもとても小さいあるいは大きいということを示しているという程度の認知で不便しない。しかし今回使われているm(milli)はどうなのであろうか。gという単位でなくとも、たとえば牛乳は1Lという表記もあれば1000mLという表記もある。清涼飲料に関しても、1.5Lという表記もあれば1500mLという表記もある。長さ1mmというのも日常では聞く。直接1m=1000mmというのを知らなくても、1m=100cm, 1cm=10mmという程度は常識だろう。そのことを知っていれば1mの100分の1である1cmよりも小さいから1mmは1mの100分の1よりずっと小さいということくらいわかっているだろう。これらを踏まえれば、milliが1000分の1を表すということは常識と言って差し支えないだろうし、例え知らなくともとても小さいことは分かっていると思う。そのことから考えて、1000milliというのを見たときに単位として小さいものが使われているということを認識できていないというのはいかがなものか。それは日頃の不注意に入るだろう。μgやngを用いて表示するのは誇大表示だといえるかもしれない。しかしこれほど認知できる可能性の高いmを使ったmgをもって誇大表示というのは言い過ぎであると思う。もっとも、このことを認識できていなかった人がこの本を読んだとすればその本の真偽にかかわらず本に完全に影響されてしまって終わるだけであろう。

2. Taurineは薬だ。
料理などで砂糖を使うとき、その量はmgではなくgという単位を使うであろう(大匙や小匙を使うというのはおいておく)。この場合、mgという表示を用いればそれは適切とは言えないだろう。ほかの食品類で考えてみても、食品類の重さを表す時は大抵はgやkgだろう。我々が普段それらを使うときはそのようなScaleで使用するからそれは当然の結果だといえる。ところでこの問題「Taurine1000mg」という表示は栄養Drink類のものだろう。これらは普通の清涼飲料等と同じような感覚で冷蔵庫に保管し、飲むことができるため、ついつい一般食品類と同じような感覚に陥ってしまうかもしれない。しかしそれは大きな間違いである。Taurineは(合成品に限るが)日本では医薬品扱いされている。栄養Drinkが例え医薬部外品だとしても薬の一種であることに変わりはない。そのため、Taurineの量に関しても、食品類のScaleで考えるのではなく、薬のScaleから考えるのが妥当だろう。世の中には様々な薬があるが、それらの成分表示を見ると、gという単位は大きすぎるのでほとんど使われていないことに気が付く。つまり、薬の世界ではむしろgという単位を使うほうが珍しいといえる。その延長上で考えれば、1000mgというのは確かにgで表しても差し支えない値ではあるが、mgで表示してもそこまで不自然な値ではないため、薬の世界の標準に則ったmgを用いていることは全く驚くべきことではないと思う。むしろ自然なことなのではないだろうか。そもそも食品類の成分表示を見ても、熱量、蛋白質、脂質などはg表示が多いが、その他の成分に関してはmgまたはそれよりも小さい単位で書かれていることも全く珍しいことではない。Taurileも栄養Drinkの1成分であるわけだから、この観点からも不自然なことではないだろう。

3. そもそもTaurine1000mgって体にとって少ない量なのか?
そもそもの問題として、Taurineが1000mgというのは大したことのない量なのであろうか。2.でも話した通り、薬の表記はmgやそれよりも小さい表記で書かれていることが多い。それは薬の世界ではその程度の小さい量で体に十分な効果をもたらすからだ。Taurineも同様に、多量に摂取しなくとも効果のあるものなのではないだろうか。残念ながら僕は理学部であり、薬に関することに関しては全然知らない。そこで簡単に調べてみたところ、Taurineは体中に体重の0.1%ほどの量(体重60kgで60g)が含まれているようだ(出典 : タウリン(1) 食と健康Express、静岡県立大学食品栄養科学部教授 横越 英彦、http://sfns.u-shizuoka-ken.ac.jp/express/newspaper/taurine01.html 2013/11/30閲覧)。また、東京化学同人『生化学辞典』によればTaurineは人間の場合1日あたりおよそ200mg尿排泄物として排泄されるようだ。飲料として摂取したTaurine1000mgはもちろん全てが吸収されるわけではなく実際には一部しか吸収されないであろう。しかしそうであったとしても、もともと体中に60g(60 000mg)しか含まれておらず、1日のうちに200mgが体中で作られ、排泄されることを考えれば、1000mgというのはむしろ多いように思う。逆に1g等と表示して少ないように思わせたならば、少ないから何本でも飲んでもよいだろうと思い込み、1日に何本も飲む人が現れるかもしれない。薬に限らずなんでもそうだが、過ぎたるは及ばざるがごとしであり、多ければよいというものではない。僕自身がTaurineに関する知識が殆どないため断定はできないものの、Taurine1000mgは決して少なくない量であり、むしろ多いくらいだと感じた。

僕自身別に食品表示の専門家でもなければTaurineの専門家でもない。だから本当のところこの表示が適切か不適切なんていうのは分からない。しかしながら、以上のことを踏まえて僕自身はTaurine1000mgの表示に対しては誇大表示だとは思わないし、適切な表示であると感じる。ましてやどや顔で「Taurine1000mgって実はたったの1gなんだよ!詐欺だよね!」なんて言い歩きたいとは全く思わない。皆さんはこの表示に対してどう感じるだろう。

最後に一つ注意してほしいのが、僕はこの本の帯を見かけただけであり、本文に関しては全く読んでいない。帯の内容とは違い、素晴らしい内容が書かれているかもしれない。そもそも本の帯って著者が自分で書いているのだろうか。出版社が勝手に適当につけていそうな感じもする。そんなわけで決して『食い逃げされてもバイトは雇うな 禁じられた数字』という本に対して批判しているわけではない。あくまであまりにも軽すぎる本の帯に対してだ。ちなみに僕自身はこの本の帯を見て絶対にこの本は読まないと決めたため、本の中身に関してはおそらく一生知ることはないだろう。ああそれと一つと言っておきながらもう一つ付け加えておくが、何度も言っている通りこれらに関しての専門知識は全く有していないのでこの本文は誤りだらけかもしれないため、真偽に関しては自身で調べて考えてほしい。

Filed under: 雑学/雑談 — ほくと 23:24  Comments (0) Tags :
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